Vol.5
最後までキモノを活かす、生まれ変わらせる。
ブランドの新プロジェクト〈H-series〉
■例えば一番新しい〈H series〉であったりといったアイデアも、そういった作業の繰り返し、課題をクリアしていく中で、新たに生まれてきた、という部分もあるんでしょうか。
「何かを作るほど、どうしても端切れはたくさん出てきてしまう。小さな汚れやシミだったり、ほつれがあることで使えない、というパーツがどんどん貯まっていくんですね。でも、これを捨てるのは勿体ないよね、って。どうにか出来ないのかと考えて、スタートしたのが〈H series〉」
■ハギレ=H、というとですね。ただ、ハギレって、生産過程の中でそれほどに大量に出るものなんですか?
「ものすごく出る。例えば、ストールとかに使える巾っていうが30cmだとすると、20cmくらいの使わなかったハギレがたくさん出てくるの。中途半端だったり、長さや幅が足りなかったりで、使い道がないわけ。ものすごい長さはあるけど、どうにも使えない、とか。でも、これを活かさないわけにはいかないわけで」
■〈H-series〉の一作目はラグになるわけですが、ファッション/アパレルのアイテムではなく、インテリアに向かったというのも、非常に興味深いです。
「こういうハギレを使った、わしゃわしゃっとしたラグというのは、元々モロッコにあるんですね。〈ボ・シャルウィット〉って呼ばれるラグなんですけど、モロッコに旅行に行ったときに、とても素敵だなと思って買っていたんですね。モロッコには絨毯、手編みの美しい絨毯を作る産業があるんですけど、その中でも〈ボ・シャルウィット〉はハギレを使ってるんですよ。リサイクル・ラグなんですね。カーテンだとか、お洋服だとか、そういう不要になったものを切り刻んでラグにする、というもので。だから、どちらかというとお土産用ではなく、現地の、家庭用のものなんです。高価な特産品として海外に輸出するものではないんですね、多分。ただ、私がたまたま泊まったモロッコのホテルで〈ボ・シャルウィット〉がたくさんひいてあって、それがすごく素敵で。もう、本当にアートなんですよ。柄も一つひとつ違って。決まったパターンも中にはあるんだけど、手編みをする人たちのセンスで個性が生まれていて。それがすごく気に入ったんです。で、その時のガイドさんに『このカーペットが欲しいんだけど、どこに行ったら買えるの?』って(笑)。そうしたら、これは高級カーペット屋さんやラグ屋さんでは、これは置いていなんだ、と。それでも欲しいっていうことで、工場まで行って買ってきたんです。で、ハギレを使っていて、私が好きなものは何か、と考えたときにその〈ボ・シャルウィット〉が私の家あった。じゃあ、これをキモノで作ったらどうなるのか?というところから始まった、ということですね」
■なるほど。
「それが本当、最初の出発点。作り手の方のセンスであったり、アート作品にも見えるような作品にキモノが生まれ変わったらいいな、と思って。異文化との交流という意味でも素敵じゃないですか。どんなものが生まれてくるんだろう?っていう興味もあって。ただ、いざやってみようと思うとモロッコは遠いし、ルートもなくて。じゃあ、どうしようかって調べていったら、インドのルートが見つかって。インドでもこちらから指示を出せば作れる、っていうことになって。モロッコのデザインというのは、やっぱりモロッコ独自のものだからインドでは再現不可能なんですよね。やっぱり、専門のアーティストの方々が作っているわけだから。でも、私たちである程度のデザインを作ることができば、近いものは作れるかもしれない。ということで、手元にある大量のハギレや、汚れや染みがあることでそもそも解体すらしていなかったキモノだとか、そういう素材をインドに送ったんです。で、そのインドの工場の人たちが素材を刻んだり、選んだりして、一枚のラグにまとめてもらう、っていうことを試してみたんです。要は何を期待していたかと言うと、やっぱり海外の色合わせって独特なんですよね。日本人の感覚での色合わせとは違う。それってどうしても、日本でやっても出せないな、と思ったので。それを見てみたいと思って、海外におまかせで依頼してみたんです。こちらからの指示は、ある程度のパターンと、円形で、ということくらいで。色合わせは完全におまかせ。好きにしてくださいって。だからこそ斬新な、ちょっと変わったものが仕上がってきてるんですね」
■これまでのプロダクトとは違い、自分達とはまた別の視点、感覚を取り入れたということですね。
「〈H-series〉はチャレンジな部分が多いシリーズではありますね。ハギレという小さなものを使って何が作れるのかということがメインのテーマなので、アパレルの方のちょっとクールなイメージとはまた違う、楽しいもの、わくわくするものを作りたいかな、と思ってますね。カジュアルな感じで、新しいもの」
■第2弾にあたるルームシューズも、バブーシュを思わせる異文化的なテイストがありますね。
「そう、これも元々のイメージはバブーシュだったんだけど、サンプルを作ってみたらダサくって(笑)。で、改良に改良を重ねるうちに、オリジナルなものが出来上がってきたという感じ。だから、本当に、実際に作ってる方たちには迷惑なブランドだと思いますよ(笑)。元々モノ作りをしていない素人だからこそ言えてしまう図々しさというか、発想と言うか。詳しい知識を持っている人なら絶対にしないであろうお願いを平気でする、という。それに付き合って下さる方がいることは、本当に感謝ですよね。そういう無茶を面白がって下ささる方がいて、一緒に、今までにない、ちょっと変わった何かを作っていくっていうことがすごく楽しい」