Vol.7

Aug 25, 2022

キモノに詳しくなくても、ルールを知らなくても構わない
「なんだか分からないけど素敵だな」と感じてもらいたい


■制作の過程の中でのアイデアの発展、といったこととは別に、実際に購入して頂いたお客様からの反応や、ポップアップショップを実施することでの発見や気づきといったものはありましたか。

「まずあったのは、自分たちが最初に想定していた層ではない方たち――より年上の方たちが興味を持ってくださるんだな、ということ。やっぱり着物と触れ合いのあった方たちほど、いいなと感じていただけるんだな、と。

最初は私ぐらいの年代、40代くらいを想定していたんですね。若干金額が高めのものであっても、面白いものだったり、個性的なもの、他の人とは違うものであれば身に着けたい、買ってもいいなと考えるような層をイメージして作っていたんです。実際のところ――勿論、そういう層のお客様もいらっしゃるんですけど――自分達が着物を着ていた世代の方々、お母さん世代やもう少し上の世代の方々がとても興味を示してくださって。

なるほど、そうなのか、と。上の年齢層の方たちは、ご自身で着物を持ってらっしゃると思うし、着たこともある。でも、今はもう着れない、ということなんじゃないかな。色々な理由があると思うんですけど。体型が変わったからとか、着る手間が面倒とか。でも、着物を身に着けたいという思いを持ち続けていらっしゃる方は、とても多いんだな、ということはとても感じましたね」


■実際に70代後半の私の母ともポップアップショップにおうかがいしたことがあるんですが、母が本当に楽しそうなんですね。いろいろな生地を見たり、触れたりすることで、記憶が蘇るというか。自分もこの柄は持っていたとか、これは当時流行っていたんだ、とか。一つひとつのプロダクトの持つ歴史を読みとれるんだな、ということに、私も驚かされました。

「私たちは着物の専門家ではないので、着物の歴史やデザインの歴史を説いていこう、という気はあまりないんです。例えば、私が好んで選ぶ着物というのは、おそらく昭和初期もの――アンティークに近いんだけれども、現代的でもあるっていうくらいの時期のものなんですね。多分。やっぱり流行的なものがあって、私は、その時代のあたりの着物を選びがちな傾向がある。その頃の匂いというか、デザインを失わないまま未来繋げよう、保存していこう、ということは、どこかでメッセージ的には伝えてもいいのかも知れない。ただ、あまり中途半端に手を出すと識者の方たちに怒られそうだから(笑)、どうしようかな、とは思ってます」


■なるほど。

「パッと見でおしゃれよね、とか素敵よね、とか。アート的な意味合いでの残し方というか。『なにかは分からないけど素敵』とか、そういう感じでもいいのかな、と思っていて。あまり蘊蓄を垂れてどうこうしようというよりは、まずは感じていただきたいというか」


■ただ、今回お話を聞いていて本当に面白いなと思ったのは、“エシカル”や“サスティナブル”は大切だし重要だってこと分かったうえで、「ただ私はファッションが好きなんです」という軸がブレていないところなんですね。今更、声を大にして“エシカル”、“サスティナブル”と言わなくても、当然の前提としたうえで「私は、私」とおっしゃってて。

「今、言ってたようなことって……。例えば、着物って長い文化があるから、いろんなルールがあるんですよね。年齢であったり、季節だったり、生地と生地の合わせとか、柄と柄の合わせ方とか。私はそれも度外視したいと思ってるんですよ、正直(笑)。今、私が好んでいるのは“柄やデザイン”であって、“着物のルール”ではないんです。ルールはどうでもいい。現代において、素敵な布地を好きなように着たらいい、見つけたらいい、って思ってるから。

“文化を継承する”という部分でも、厳密なルールまで継承しようとしても、無理じゃないかと思うんですね。なぜなら、そのルールは今の時代には合わないから。今の時代に合わせて廃れないようにする、より時代に合った形でいいところを活かせばいいじゃないか、と。

だから、着物を伝統文化として、日本文化として未来に繋げていきましょうっていう気は全くない。それは他にやっている方たちがたくさんいらっしゃるし。私はそういう堅苦しさが苦手だし。『そういう事を言ってるから、ルールが多すぎるから、未来に継承できないんじゃない?』って。そうじゃないところ、ルールがなくてもいいところを存続させていく、ってという部分にフォーカスしたいんですね。だから私は布地の勉強とか、柄の勉強とか一切していないんですよ。基本的には。自由にデザインとして、素敵に見えるもの、格好よく見えるものを追求する。そこに着物のルールは持ち込まない、ということです」